童話「風の妖精たち」メアリ・ド・モーガン作 感想 ウィリアム・モリス装丁 感想 読書レビューです。
1990年に発売された、岩波少年文庫創刊40周年記念特装版です。
モリス商会という会社の装丁となっています。
モリス商会は、イギリスのデザイナー、ウィリアム・モリスらが設立した会社です。
一昨年の2021年、創立160周年を迎えました。
この特装版は全30冊で販売され、風の妖精たちはその中の1冊です。
私がこの本に出会ったのは、近所の図書館が潰れるので本を無料で貰えるということで、母が何冊か貰ってきた中にありました。
全30冊の中には、クマのプーさんやふしぎの国のアリスなど、有名な作品もたくさんあります。
概要
作家 メアリ・ド・モーガン
翻訳 矢川澄子
挿絵 オリーヴ・コッカレル
装丁 ウィリアム・モリス
出版社 岩波書店
発行日 1990年9月14日
岩波少年文庫創刊40周年記念
特装版8
原書出版年 1900年
通常版 1979年
新版 2007年
作者について
イギリスの作家、メアリ・ド・モーガンは、高名な数学者の末娘として生まれ、モリスと家族ぐるみで親しい関係でした。
創作した話を集まった人々に聞かせ、その中にはジャングル・ブックの作者もいました。
このことについてはこの本の最後に書いてあります。
生涯で残した著書は3冊で、風の妖精たちのほかは、フィオリモンド姫の首かざりと、針さしの物語です。
風の妖精たちが最後の作品で、1907年に57歳で、エジプトで亡くなりました。結核でした。
モリスの装丁
装丁も美しく気に入っていたのですが、有名なデザイナーとは知りませんでした。モダンデザインの父と称されています。
つい昨日、セリアでモリスデザインのアイテムがたくさん追加されていたという記事が出てました。
去年、100均でモリスデザインが買えると、SNSで話題になっていたそうです。全く知りませんでした。
さらには、去年の9月〜12月まで、東京・府中市でウィリアムモリス展が開催されていたようです。乗り遅れました。
展覧会はしょうがないので、セリアには行ってみようかと思いました。この雰囲気だとフランフランでも売ってそうだなと思いました。
矢川澄子さん
ワードセンスの鬼だと思いました。
言葉選びの一つ一つが珠玉。早くから天才少女と言われていたそうですが納得です。
没後は不滅の少女と称されました。
調べてみたら壮絶な人生でして、最後は自宅で自害されました。2002年のことでした。
こんなに魅力ある翻訳をされる方が自ら命を絶ってしまったこと、とても悲しく思います。
各話あらすじと結末
前置きが長くなりましたが、本題に入ります。
風の妖精たち
リシュラという少女が風車小屋で風の妖精たちに踊りを習った。
そのことを誰にも言ってはならない、誰に習ったかを言えば、足が重くなって二度と踊らなくなり、一番大切な人に不幸が起きる。その代わり、約束さえ守れば最も困った時に助ける。と言われた。
リシュラは羽のように軽やかに踊ることが出来るようになったが、それきり妖精たちと会うことはなく、やがて美しい女性に育った。
踊りが巧みな船乗りに求婚されて承諾し、実家を離れて父と共に夫と新しい土地で暮らし始めた。
二人の子供に恵まれ、幸せに暮らしていたが、ある日魚が寒さで全滅して貧しくなり、夫は乗組員を求めていた船で航海に出ることになった。
夫の留守の間、王国から来た人間に踊りを見初められたリシュラは、王様と妃の婚礼で踊ることに。
春まで踊り子を務めればお金をもらって家へ帰してくれるという約束だったが、妃の嫉妬から魔女と疑われて処刑されることに。
その時、風の妖精たちが何度も危機を助けてくれ、お金を持ち帰って家族と生涯幸せに暮らした。
感想
大体こういうお話って妃が悪者になってますよね。白雪姫とか。女の嫉妬は恐ろしいということですね。
王様が帰してやれと言った時に帰していれば、大惨事にならずに済んだのに愚かです。
波と戯れて踊る様子など、情景が浮かぶようで矢川澄子さんの翻訳が素晴らしいです。本気で妖精に踊りを教わりたくなります。
池と木
荒れた広野に佇む一本の木と傍にある池は愛し合っていた。
その木は世界に一本か二本しかない珍しい木のため、旅人に引っこ抜かれて庭園に連れて行かれた。
池は太陽に頼み、雲となって木まで会いに行き、風に頼んで降ろしてもらった。
地面に入り込んだ池は木と二度と離れることはなくなった。元気がなかった木は甦り、花を咲かせて人々を喜ばせた。
感想
木陰がなくなり池の水が干上がることを、木が恋しくて池が会いに行ったと表現したこと、水がなくて干からびていたのを池に会えたことによって喜びで生き返ったと表現する発想がすごいです。
太陽が池を引っ張り上げるのを何百本の金色の糸、諸手を挙げて喜ぶをもろ葉をあげてと表すのが好きです。
ナニナの羊
ナニナという娘がひと月留守にする農夫に、羊の群れの面倒を任された。
その際、丘の向こう側にある城跡には決して近づくな、悪い妖精がいると言われる。
退屈になったナニナは忠告を破り、城跡へ行った。
夜になり、古い館に灯が灯り始め、中から美しい少年が黒い山羊の群れを連れて出てきた。
少年は笛を吹いて楽しげに踊り始めた。
頭を下げ、腕を差し出してきた少年と一緒に、ナニナも踊った。
日の出の直前、少年は手を外して笛を吹き鳴らすと、館へ消えていった。
気がつくと、子羊が一匹減っていた。
また城跡へ行ったナニナはまた踊り、さらに子羊が一匹消えた。
踊らないと決めて行っても踊ってしまい、とうとう全ての羊を失った。
探しても見つからず、疲れてぶなの木にもたれて泣いていたところ、枝が折られていたため、紐で結えた。
枝を助けてくれたお礼に、ナニナはぶなの木から、踊らなければ一頭ずつ羊は戻ってくると教えられる。
ナニナは踊らないなんて無理だと言うが、ぶなの木は深い穴を掘り、足を入れればきつく押さえつけると言われ、ナニナは言うことを聞いた。
踊りたくて足を引き抜こうとするのを木がしっかりと押さえつけたため、ナニナの足は青くなって腫れ上がり、血を流してまともに歩けなくなった。
それを何日も繰り返した。
そして全て羊を取り返し、古い館は崩れ落ちた。ナニナの血でぶなの木の下には緋色の花が咲いた。
感想
本書の中でも特に好きな話です。
足がものすごく痛そうです。びっこを引くほど、這いずるほどとは。
最後の一頭の日に、少年は陽気な音楽だったのを葬送のようにして、宝石を散りばめた冠を被って出てきます。
美しさや哀愁で惑わそうとする狡猾さに、人外加減が出ていてゾッとします。
ジプシーの杯
若い陶工の男と、ジプシーの娘が出会った。
その娘は男に、まじないのかかった茶色い杯を男に作った。
そのまじないとは、杯で先に自分が飲み、恋人に飲ませれば心が手に入るというもの。ただし二度飲ませると相手を憎むようになるという。
月日が経ち、男は機織りの娘に一目惚れし、結婚を申し込んだ。渋られたため、あの茶色い杯を使ってワインを飲ませた。
すると娘は結婚を承諾し、二人の間には娘が生まれた。
ある日、陶工は用事で出かけることになり、家には妻と赤ん坊だけになった。そこへ怪しい男がやってきて、食べ物を恵んでほしいと妻に頼んだ。
そして茶色を杯を見つけると、貧しいので譲って欲しいと言った。さらに餞にと乾杯をせがみ、妻は嫌々、杯の酒を飲んだ。
男が去ると、妻は急に悲しくなり、陶工が帰ってきても不機嫌だった。
陶工は杯が原因だと知った。陶工は杯を持って行った男を探す旅に出た。
赤ん坊と残された妻の元へ、ジプシーの女が幼い息子を連れてやってきた。かつて杯を作った娘だった。
夫に引っ叩かれ、身ぐるみ剥がれたと言う。
女は茶色の杯を持って行ったのは自分の夫で、自分は明日、命が尽きるから息子が心配だと言ったため、陶工の妻は自分が息子の面倒を見ると言った。
ジプシーの女は杯の魔力について全て打ち明け、亡くなる寸前に魔力を解く杯を作り、妻に飲ませると息を引き取った。
ジプシーの息子は賢く、母を看取り、自分を引き取ってくれたお礼にと陶工の妻を助けた。
再びジプシーの男がやってきて息子を連れて行こうとしたが、魔力が解けたことを知った陶工が帰ってきて追い出した。
ジプシーの少年も陶工となったが、作られたものにまじないが込められることはなく、家族は幸せに暮らした。
感想
インディ・ジョーンズ、最後の聖戦の杯を思い出しました。他の作品は月の光で塗って色とりどりなのに、魔力が備わった杯は時まで茶色いというところが。
ジプシーの娘が現れた時、年端もいかず薔薇色の唇で美しい様子だったのに、DVされてやつれて亡くなったのが悲しいです。
ですが息子が賢く立派で、幸せに暮らしたのが救いでした。
声を失ったオスマル
村に住む美しい歌声を持つオスマルが、人間の男女に変身する楽器を持つ小男に目をつけられた。
オスマルは変身した楽器の女にキスをされ、声を奪われた。
同じ村に住むフルダという娘がオスマルの声を取り戻すため、旅に出た。
フルダはある村で馬鹿者から烏のする通りにしろと教えられ、烏を追っていくと小男を見つけ、蛇を使って楽器の女の命を奪った。
蛇を持ち帰るとオスマルの目の前でトランペットに変わり、それを吹くとオスマルの声が蘇った。
オスマルとフルダは結婚した。
感想
このあたりきっての馬鹿者、哀れな白痴、などなかなかなワードが出てきます。
この白痴のトミーがいなかったらオスマルは啞(おし)のままだったわけなので、オスマルとフルダはトミーに菓子折りでも持って行ってて欲しいですね。
フルダは別れ際、何よ、ただの哀れな白痴じゃないの!と怒ってたので謝って欲しいです。
村の人たちが別の村の少女を普通に監禁したのが恐怖でした。
雨の乙女
10年前に赤ん坊の頃に娘を亡くした羊飼いの妻が、ある雨の日に灰色のコートを着た女に水を一杯恵んだ。
その女は妻に、あなたにまもなく子供が生まれるが、この世の何ものにもまして大事にしていれば側にいるが、娘の幸せ以上のものを大事に思うようになったらいなくなってしまうと忠告した。
夫は亡くなり、美しく成長した娘。王子に見初められ、求婚された娘。母は娘に嫁に行くよう勧めたが、娘は嫌がり、ここで暮らさせてください、あなたの老後の面倒を見させてくださいと頼んだ。
しかし母は激怒し、羊飼いの娘の分際で王子の求婚を断るなど何様だと言った。
婚礼の日、洪水が起こって娘は消えてしまった。人々は水に飲まれたと思ったが、母は灰色のコートの女の言葉を思い出していた。
王子は別の姫と結婚したが、雨が激しく降ると羊飼いの娘の声が呼びかけてくるのだった。
感想
老後どうしよう、娘がいたら面倒を見てもらえるのにと思って、灰色のコートの女から娘を授けられたのに、欲張ってしまい、悲しい結果になりました。
ですが、裕福に暮らすことが娘にとっての幸せと母心として思ったのかもしれませんし、自分の老後の面倒を見させるルート以外許されないの厳しいと思いました。
農夫と土の精
若い農夫が土の精に間借人として住みつかれる。
土の精が住みつけば、何をやってもうまくいき、金持ちになれるという。
その代わり、家の戸口をくぐったものは何であっても一番いいところをほんの少し取り分けること、食事は先に食べさせることを約束させられた。
土の精は黒い顔をした醜い女の小人で、ねずみが作った穴に住み着いた。
約束を守った農夫は金持ちになり、やがてとなり村の娘と結婚した。
ねずみの穴に食べ物の一番美味しいところを置くという夫の行為に妻は、気が狂ったのかと聞いた。
農夫は亡くなった祖父の遺言でねずみを大事にして、一番いいものをやってくれと言われたと妻に言った。
妻が新しい衣類を買ってきた日、久々に土の精が出てきて文句を言った。女が嫌いと言ったのに勝手に結婚したこと、妻が買った洋服を何も渡されてないこと。
これからは妻が買った洋服は全て、同じものを買ってくれと言った。
小人の要求はエスカレートし、妻の髪の次は妻の顔の皮になった。
断れば、財産を全て取って出ていくと言ってきたため、農夫は困り果てて泣き続けた。その様子を見た妻が小人のことを聞き出すと、妻も泣き出した。
貧乏になりたくはないが、醜い顔になるのも嫌だと。泣き腫らして顔が赤く腫れ上がり、目も殆ど開かなくなった。
約束の日、その腫れ上がった顔を見た小人は驚き、気が狂ってると言って出て行った。
夫婦は楽しく余生を終えた。
感想
要求強めの座敷童みたいな感じですかね。この時代は特に髪は女の命ですのに、バッサリ切らされて可哀想です。
さらには顔の皮なんて。貧乏なんて不幸、美しくないと不幸!と嘆く奥さん、素直で良いです。
最初は一番良いところを少しだけと言っていたのに、靴や服を丸ごとになって、人体まで要求するなんて太々しいです。
2、30センチの醜い黒い顔をしたワガママな女の小人とか気持ち悪すぎます。
最後は財産取られずに済んで良かったです。
おわりに
子供の頃、何度も読んだ本ですが何度読んでも面白いです。
挿絵も大好きなのですが、作者の名前で検索してもこの作品しか出てこなかったので、日本にはこれしかないのかもしれません。
新版の裏表紙にフェアリー・テイルの傑作ですという紹介文がありましたが、その通りだと思います。
今回、記事を書くにあたり作者や装丁について調べ、知らなかったことを知ることができ、よりこの本が好きになりました。
物語も言葉のセンスも非常に優れた一冊です。おとぎ話の世界に浸れますので、夜や雨のお供におすすめです。
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